三角関数近似の話

前回の話で、基底や内積について紹介したが、それは二次元の座標平面での話だったので、もっと一般の空間(線型空間)に対して内積を定義したい。

内積の一般的な定義

ℝ上の線形空間Vの二点 x,y に対し複素数 (x, y) が対応して次の条件を満たすとき、この (x, y) を x と y の内積という。

①:(x, x) ≧ 0 で、(x, x) = 0 となるのは x = 0 のときのみである

②:(x, y) =(y, x)

➂:(x + y, z) = (x, z) + (y, z)、 (αx, y) = α(x,y)  (α∈ℝ)

 

※ℂ上の線形空間のときは②の右辺は共役複素数になる。

関数空間の内積

ここでは、-π≦ x ≦π で定義された関数 f(x) 全体の空間を考える。関数の空間ってなんだよ、という話だが、要するに関数の集合で、関数同士をたしても関数、関数を何倍かしても関数になるようなものと思ってくれれば十分である。

 

関数 f, g に対し、(f, g)を、

 

(f, g) = ∫[-π, π] f(x)g(x)dx

 

とおくと、これは上の条件①、②、③を満たしている。

(この関数空間での 0 は、零写像のことである。)

 

このようにうまく内積を設定すると、次が分かる。

(1, cos(nx)) = 0

(1, sin(nx)) = 0

(cos(nx), cos(mx)) = 0 if n ≠ m

(sin(nx), sin(mx)) = 0 if n ≠ m

(cos(nx), sin(mx)) = 0

(1は、-π≦ x ≦πで常に1に値をとる定数関数、n、m ∈ℕ)

 

これにより、集合 {1, cos(nx), sin(mx) | n, m∈ℕ}は、互いの元が直交しあうことがわかる。しかもこの集合、無限集合(可算集合)であるので、関数空間というのは、どうやら次元が無限次元ということも分かる。よって、関数 f(x)は、

f(x) ≒ (a_0)/2 + Σ[1≦n]{(a_n)cos(nx) +(b_n)sin(nx)}

のような形で書けそう、ということが考えられる。

 

※a_0 = ∫[-π, π] f(x)dx

 a_n = ∫[-π, π] f(x)cos(nx)dx

 b_n = ∫[-π, π] f(x)sin(nx)dx